01 // Twinkle, twinkle, little star

数学と言えば、沢柳先生の授業。
沢柳先生は、学校で一番怖い、と言う事で有名なのだ。
遅刻なんかしたらただじゃ済まされない。
…携帯も使えなく、勉強も増えたりと…。
沢柳先生に叱られたら、死ぬといっても可笑しくない。
…携帯電話がない生活と宿題が増える生活なんか…。
そんなどうでも良い事を考えながら私は息を切らしながらも走り続けた。
少しスピードを下げ、今まで下を向いていた顔を前へと向けると
其処には学校の正門があった。
…やっとついた…。
そう思い、私は腕にかかっている時計を確認した。
…8:50…。
あと10分だ、間に合う!
私は不安を抱えながらも、心の何処かでホッとしていた。
下駄箱へ向かい、そして教室へと向かう。
教室のドアの取っ手に手を掛け、私はその手を横に押す。
するとドアは、物音を一つも出さず、開いた。
…昨日までは明らかにふるっぽい音がなっていたのに…。
昨日の夜にでも変えたのかな。
私は少し疑問を抱いたが、教室へ足を踏み入れ、自分の席へと向かった。
私が座った途端、教室のドアが再び開いた。
「皆さん おはようございます」
そう一声掛けてから、
「出席取ります 安藤…………雪倉」
と言い始めた。
「陽雲」
「はい」
「夏樹」
「はぁい!」
夏樹、とは私の友達
夏樹柚 ─なつき ゆん
柚は返事をした後、私のほうを向いて ウィンクをしてきた。
私は小さくピースを作り、返した。
 
授業もスラスラと終わり──……といっても途中で柳沢先生の怒鳴り声が聞こえたが、
無事、お昼へと到達した。 
鞄からお弁当を出そうとした時、誰かの手が肩に掛かった。
「日和 ご飯行こ?」
後ろから聞こえてきた声──
それは、柚の声だった。
「うん」
そういって私は振り向いた。
にこにことしている柚の姿がある。
私はゆっくり微笑んで、体を前に戻した。
そして、鞄の中に手を入れて、お弁当を取り出す。
お弁当を掴んで机に置き、立ち上がって、椅子を入れる。
そして再びお弁当を手に掴み、
「屋上行こうか」
といって少しだけ微笑んだ。
柚は顔をキラキラさせて、
「うん!」
と言った。



廊下を歩いていると、柚が少しだけお弁当のにおいを嗅ぎ、
口元をぺろっ、と舐めて、私の方を向いた。
「いつもは教室なのに なんで今日は屋上?」
と私を見ながら言ってきた。
「……なんか今日は新鮮な気分だから なんとなく…かな」
私は思った事を伝えた。
あの"彼"にあってから、私の心は透き通ったように
ミントを食べたような、そんな感じがする
「……もしかして 恋?」
"恋"、その言葉に私の心臓が一瞬だけ高鳴る
「……んなわけ無いでしょ」
私は少しだけ顔を上に向け、深呼吸をしてから顔をもどした。
「……クセ」
「ん……」
「日和が嘘付く時の クセ」
私は吃驚した顔をした。そりゃ柚とは幼稚園の頃からの
幼馴染だったけど。
……自分でも分からないクセが、柚に分かるなんて──。
「……屋上の扉見えてきたよ 早く行こう」
私は少し顔を変えたが
また微笑を戻し、あいている方の手で扉を指差した。
「うん」<
──ほんの小さな声だが、
うん、と言う言葉を言った後
柚が…、ため息を付いた気がした。
 
「いっただきまーす」
「いただきます」
屋上でお弁当の準備を済ませ、ゆんに引き続き私は手をそろえ
"いただきます"と言って箸を手に取った。
ゆんは目をキラキラさせながら箸を手に持ち、
お弁当の中身の一つの玉子焼きを箸で掴んで
口へと運ぶ
「……甘い」
そんな文句を言いながらも、やっぱり目は変わらなく、ぱくぱくとお弁当を食べている。
……私は、自分で作ったご飯。
常に少食だ。
……両親?そんな物居ない。
父は借金を沢山抱え込み、家を出て行った
……母は、父が逃げた後、借金取りが毎日家に押し寄せてきて、それからこの世にいる事が
怖くなって、……自殺、した。
その事を父が知り、死んだお母さんはきにせず私を親戚の家に預けてくれた。



……あれから10年も立つ。父は私をちゃんと育てられるようになったらお前を迎えに行く、
って言ったままずっと帰ってこない……。家族なんてこんな物なんだ。
捨ててから子供を大切さをしり、また迎えに来ても育てる事ができず、結局は親戚の家に
預けて迎えに行く、って約束しても…………約束なんか守ってくれないんだ。
家族なんてそんな物、約束なんて一切守ってくんない、皆自分勝手。
もう一人の方が、……楽になれる。
そう思って、私は親戚の家を出て、一人暮らしをはじめて、今に至る。
一人暮らしをはじめたのは中学1年生の頃。
その頃は料理も全然できず、柚にばっかり頼ってた。
でも、今は家事も全部できるようになった……、つもり。
すると、一粒のしずくが、甘い玉子焼きの上に落ちた。
……私、泣いてるのかな。
「……日和? どうしたの?」
「ううん……何でもない……よ…っ…」
「なんでもなくないじゃん 泣いてるじゃん」
泣いてる…?
……そっか、私泣いてるんだ。
じゃあ今玉子焼きの上に落ちた雫は涙なんだ……。
「私 もう食べ終わったから 教室行こう?」
嘘。
ほら、まだ玉子焼き残ってるじゃん。
目キラキラさせて食べてたじゃん。
全部食べなよ……。
「……食べてていいよ」
「ばかっ 何言ってんのっ」
「……」
「日和が泣いてるのに お弁当なんか食べられないよ!」
ゆんはその言葉を口にした後、涙を頬に伝わせた。
「ねぇ 教室行こう……?」
泣いてるからか、先程より声が小さくなった。
「……でも…」
私はそう言って、ゆっくりゆんを見上げた。
「いいからっ!」
───ああ、これが友達なんだ。
これが、"親友"なんだ……。
私達は弁当を片付けて、お弁当を手に持ち、歩き始めた。
ゆんは私の肩を支えながら、同じペースで一緒に歩いてくれた。
 
 
私達は教室に戻ると、ハンカチを取り出して涙を拭いた。
……、やっぱり私、寂しいのかな……。
本当はお父さんの所に、行きたいのかな……。
一人で暮らす、って自分で決めたんだもん、今更しょうがないよね。
私はハンカチで涙を拭きながら、そんな事を考えていた。
……時折ゆんが何かを口に出そうとしているが、言えない様で口を閉じる。
多分、私が何で泣いていたのかを聞きたいんだろうな、……。
「……日和」
「ん……」
「一緒に 暮らさない?」
……、は……?
一緒に、暮らす……、え……?
「えと……?」
「……最近私 一人暮らし始めたんだ」
突然の言葉に、私は目を見開いた。
「え……?」
「……日和が泣いてたのって 寂しいからでしょう?」
……ゆんには何でも見透かされるんだ……。
すごいなぁ……、私でもハッキリとした事は分からないのに…。
私は口に出せず、頷いて、返事をした。
「……ほらっ 私も一人暮らし寂しいしさ? 一緒に住んじゃおうかなぁ……って!」
……やだなぁ、無駄に明るく振舞わなくていいのに。
家を出るのが寂しいなら自分の家にいればいいのに。
ゆんって……ほんと、……尊敬、しちゃうな。
「ほんとに いいの?」
「も もちろんっ それに日和の家広いし 私のマンション学校から遠くって!」
私はゆっくり微笑み、先程のノートを取り出して何かを書き始めた。
書き終わると、私はその紙を破り、ゆんの手元に置いた。
「これ 家の住所だから いつでも来ていいからね」
「あっ あと!」
私は慌てて胸元のポケットから小さい鍵を取り出した。
「これ 家の合鍵ね ミスで二つも作っちゃったみたいなんだって」
私はふふっと、目を細めて笑った。
「合鍵までりがとっ 今日見に行くね!」
「うんっ んじゃまた!」
今日は授業が4時間しかなく、昼食が終わったら勝手に帰ってもいいのだ。
私は自分の鞄にお弁当を入れて、鞄を手に掛けた。
そして、ゆんにピースをして教室から出た。