01 // Twinkle, twinkle, little star

「それじゃおばさん行って来ます!」
「はいはい いってらっしゃい」
朝っぱらからバタバタ、と音を出しながら家の中を走り回っている一人の中学生。
陽雲 日和─ ひぐも ひより
長所も短所も、何の取り柄もない朝比奈中学の2年生。
現在、ばたばたしている理由。今日は 7:20 に起きた。今は 7:45 。
もう予想が付いただろうか。そう、早く学校に着かなければ遅刻、と言う事になる。
私は口に食パンを放り込み、親戚のおばさんへ家を出ると伝え、
靴を履き、玄関を開けて外へ出た。そこで立ち止まっている時間も無く私は食パンを
口に入れながらも走り出した。
周りの人なんかも目に入らず、ただただ、走り続けている。
「あ 日和ちゃ」
「……ありゃ?」
近所の叔母さんの声さえ耳に入らず言い終わる前に、私は去ってしまった。
"遅刻"、その言葉しか今の私の頭には入って居なかった。


すこし疲れてきた。スピードを下げよう。
そう思い、スピードを下げようとしたその瞬間。
「…っ!」
「……!」
私と……、誰かがぶつかった。私はその衝動で3歩下がり、尻餅を付いた。
「……」
「……! だ 大丈夫ですか?
私がゆっくり立ち上がる。
一人の男の人が頭を片手で支えて起き上がろうとしていた。
そんな姿を見て、"頭を打った"と言う事が分かった。
私は目の前に居る男の人に片手を差し出し、少しだけ、ほんの少しだけ微笑んだ。
男の人はその手に気づき、私の顔を見つめた。
片手は頭を支え、片手は……、私の手に乗った。私はその手を握りしめ、
ゆっくり引っ張った。
頭、大丈夫かな、病院行かなくて大丈夫かな…。
そんなことを考えながらも再びゆっくり微笑んで、顔を戻した。
「すみません 頭……大丈夫ですか?」
「……」
「あの…?」
……困ったな……もしかして人見知りかな……?
私が困っていると、男の人は一枚の紙とペンを取り出した。
 
彼は、その一枚の紙に、ペンで何かを書いている。
書き終わったのか、ペンをしまい、その紙を私に見せた。 
"すみません 僕喋れないんです。
 怪我とか ないですか?"
……喋れ、ない……?
って事は耳も聞こえないのか
私はポケットに手を入れ、小さなノートを取り出した。
そして、胸元のポケットに掛けてある、ボールペンを取り、
ノートに文字を書き始めた。
"喋れないんですね……。
私は大丈夫ですよ!
それより…… 頭 大丈夫ですか?"
そう書き、先ほどと同じ様に彼に見せた。
すると彼は微笑んで、再び紙に文字を書き始めた。
"すみません……お手数おかけします。
そうですか…… 良かったです。
僕なら大丈夫ですよ、
安心してください"

私はにこ、と微笑んで、腕にかかっている時計を見た。
……8:20…… やっばいっ遅刻!
私は急いでノートをめくり、文字を書き始めた。
"すみません!
学校遅刻です……。
そろそろ失礼させて頂きますね!
さようなら。"
そう書いた紙を破って彼に渡し、私はお辞儀をして去った。
 
私は走り出したが、"もう遅刻"と言う事を思い出し、
ゆっくりあるきはじめた。
私はある事を思い出し、後ろを振り向いた。後ろには、
ずっと頭を下げている"彼"、が居た。
彼が頭を上げると、私はにこ、と微笑んだ。
そして手を振り、再び歩き始めた。
歩いていると、何か腰辺りが震えだした。私は腰のポケットに手を突っ込み、
携帯を取り出した。
携帯はぶるぶる、と震えている。私は携帯を開き、メールを確認した。
 
──
日向っ遅刻だよっ!
早くしないと先生くるよう
そうだ、今日の一時間目は数学だから!
──

数学……え……一時間目……? ……!
やばっ! 早くしないと!
私は走り出した。